EC物流市場が急拡大する理由と今後の展望を徹底分析

EC物流市場は近年急速に拡大しており、特にコロナ禍やスマートフォンの普及により大きな変化を遂げています。本記事では、日本と世界のEC物流市場規模の詳細なデータを基に、現状分析と今後の展望について専門的に解説します。BtoCからBtoB、CtoCまで各分野の成長率や課題、そして今後のトレンドまで網羅的にお伝えします。
目次
- EC物流市場の驚異的な成長実態
- 世界と日本のEC物流市場規模比較
- EC事業者の配送サービス競争激化
- 現状分析から見る市場動向
- EC物流が抱える深刻な課題
- オムニチャネル戦略の重要性
- EC物流市場のまとめ
■EC物流市場の驚異的な成長実態

ネットショップの普及に伴い、EC物流市場は目覚ましい成長を続けています。しかし、全ての分野が一様に成長しているわけではありません。詳細な分析が必要な複雑な市場動向を紐解いていきましょう。
国内のEC物流市場は全体的に拡大傾向にあります。BtoC(企業対個人)、BtoB(企業対企業)、CtoC(個人対個人)の3つの取引形態すべてが成長を見せています。
特にBtoC市場については、経済産業省の令和3年度電子商取引に関する市場調査によると、20兆6,950億円という巨大な市場規模となり、前年比で1兆4,171億円増加、伸び率は約6.84%を記録しました。この影響で宅配便の年間配達数は約50億個に達しています。
この急激な市場拡大の背景には3つの主要因があります。
まずSNSの爆発的な普及です。若者を中心としたトレンドの多くがSNSを通じて瞬時に拡散されるようになり、EC物流市場に強力な追い風をもたらしています。
次にスマートフォンの普及です。同調査によると、スマートフォン経由のBtoC購入額は6兆9,421億円と全体の約35%を占め、パソコンと合わせると52.2%に達しています。10年前のスマートフォンからの購入率はわずか27%程度でしたが、2017年に35%、2019年に42.4%、そして2020年には51%まで急上昇しました。
スマートフォンの大きな優位性は、アプリを通じた購入体験にあります。パソコンではメール経由での通知が基本ですが、スマートフォンではアプリから直接プッシュ通知が届くため、ユーザーの認知度と閲覧確率が圧倒的に高くなります。
年 | スマートフォン購入率 | 主な背景・要因 |
2012年頃 | 27% | スマートフォン普及初期 |
2017年 | 35% | アプリ決済の浸透 |
2019年 | 42.4% | SNS連携強化 |
2020年 | 51% | コロナ禍・巣ごもり需要 |
2021年 | 52.2% | デジタル決済完全定着 |
最後にコロナ禍による巣ごもり需要の拡大です。緊急事態宣言などの影響により、従来の店舗での購買行動がオンラインに大きくシフトしました。
BtoC市場は「デジタル系」「物販系」「サービス系」の3分野に分類できます。
分野 | 2013年 | 2021年 | 成長率 | 2021年前年比 |
デジタル系 | 1兆1,019億円 | 2兆7,661億円 | 約2.5倍 | +12.4% |
サービス系 | – | 4兆6,424億円 | – | 縮小傾向 |
物販系 | – | – | 継続成長 | +1兆円超 |
デジタル系は3分野中最も高い伸び率を示しています。2013年の1兆1,019億円から2021年には2兆7,661億円となり、約2.5倍以上の成長を記録しました。2021年には前年比12.4%増となっています。
デジタル系には有料音楽・動画配信、電子出版、オンラインゲームなどが含まれます。スマートフォンやタブレット端末の普及率向上と、コロナ禍の在宅需要が市場拡大の主要因となっています。
一方、サービス系は唯一縮小している分野です。2019年の7兆1,672億円から2020年には4兆5,832億円、2021年には4兆6,424億円まで減少しています。
サービス系には飲食サービス、旅行サービス、チケット販売、医療サービス、理美容サービス、フードデリバリーサービスが含まれます。コロナ禍により旅行と飲食サービスが大幅減少した一方で、フードデリバリーサービスは2021年にプラス転換しています。
物販系は2013年から2021年まで継続的な成長を見せています。自動車・二輪車、生活家電・AV機器、化粧品・医薬品、雑貨・家具、食品・飲料、衣類などが該当します。
注目すべきは2019年から2020年、2020年から2021年の各期間で初めて1兆円超の伸びを記録した点です。それ以前は8,000億円前後の成長でしたが、コロナ禍の巣ごもり需要が大きく影響しています。
興味深いことに、同期間の国内物品購入額は横ばいでした。つまり購買量が増えたのではなく、購買手段が実店舗からECサイトに移行したということです。
■世界と日本のEC物流市場規模比較
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世界のEC物流市場では大規模な投資と拡張が続いています。Amazonは2020年以降、世界各地にデリバリーステーションやフルフィルメントセンターを新設し、物流ネットワーク全体の面積を50%拡大しました。
同時に40万人以上の新規雇用を実現し、インセンティブやボーナスとして25億ドル以上を投資しています。これらの動きは世界の大手ECプラットフォームがEC物流市場の規模拡大を積極的に推進していることを示しています。
経済産業省の発表によると、2022年の世界BtoC EC物流市場規模は5.44兆ドル、EC化率は約19%となっています。EC化率とは全商取引金額に対するEC物流市場規模の割合を表す重要な指標です。
世界のEC化率は新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて大幅に上昇し、今後も市場規模拡大とともにさらなる上昇が予想されています。
対照的に、2022年の国内EC化率は9.1%程度(2021年は8.8%)にとどまっています。この数値は国内BtoC EC市場にまだ大きな成長余地があることを示唆しています。
地域・国 | EC化率 | 市場規模 | 成長余地 |
世界平均 | 19% | 5.44兆ドル | 継続拡大 |
日本 | 9.1% | 20兆6,950億円 | 大きな伸び代 |
伸び代 | +9.9% | – | 約2倍の可能性 |
■EC事業者の配送サービス競争激化

物販系EC市場の拡大に対応して、EC事業者間で配送サービスの拡充競争が激化しています。この動きがEC物流市場活性化の重要な要因となっています。
顧客獲得を目的として、各EC企業は配送料無料化、当日配送、翌日配送といった高水準の配送サービスを競って提供しています。
しかし、このサービス拡充は物流業者にとって業務の複雑化と利益圧迫をもたらします。そのため、在庫管理から受注管理、出荷、配送管理まで一括して委託できる物流サービスのアウトソーシング利用が急増しています。
■現状分析から見る市場動向
2020年代の物流市場動向を分析する際の重要なキーワードは、新型コロナウイルス、ウクライナ情勢、米中経済摩擦による物流コスト上昇、世界的な半導体不足、消費者購買活動の多様化です。
半導体不足は自動車や通信機器製造業界に深刻な打撃を与えました。米国の中国企業への制裁強化により中国から米国への半導体輸出量が大幅減少し、世界的なサプライチェーン混乱を招きました。この影響はほぼ収束していますが、一部地域では予断を許さない状況が続いています。
こうした需給アンバランスは海上輸送を中心とした物流費用高騰という形で影響を与えました。国内海運業界が記録的高収益を上げたのも、この流れの一環です。
■EC物流が抱える深刻な課題

最大の課題は物流費の高止まりです。物流に求められる機能強化は将来的に飛躍的な高まりを見せることが確実視されています。購買スタイルのEC化は個人消費だけでなく、法人需要も急速に拡大していくでしょう。
さらに様々なリスクに脅かされる状況が継続する懸念の中で、グローバルサプライチェーンの強靭化が世界経済の主要潮流となることは間違いありません。
こうした背景を踏まえた今後のEC物流市場規模推移の分析が不可欠です。市場規模はグローバル・国内両面で拡大傾向にありますが、その主因である物流費高騰への対策が重要な課題となっています。
■オムニチャネル戦略の重要性
EC物流市場、特に物販系の動向を考察する際には「オムニチャネル」の存在が極めて重要です。
従来は実店舗購入とネット購入を別々に捉えがちでしたが、実際は異なります。近年のマーケティングではオムニチャネル、OtoO、OMOという統合的な考え方が主流となっています。
手法 | 正式名称 | 特徴 | 具体例 |
オムニチャネル | – | 実店舗とオンライン統合 | 店舗注文・自宅受取 |
OtoO | Online to Offline | オンライン→実店舗誘導 | クーポン配信で来店促進 |
OMO | Online Merge Offline | 完全融合体験 | AI分析・キャッシュレス決済 |
オムニチャネルは実店舗とオンラインの両方で買い物ができる仕組みです。例えば実店舗にない商品をネットで注文し、その場で支払いを済ませて自宅で受け取るといった体験です。
OtoO(Online to Offline)はオンラインユーザーにクーポンやセール情報を送信し、実店舗への来店と購買を促進する手法です。
OMOは最も進化した概念で、オフラインとオンラインの完全な融合を意味します。具体的には顧客に多様なユーザーエクスペリエンスを提供する方法で、チャットによる質問対応、電子広告での顧客分析と商品レコメンド、モバイルアプリでのキャッシュレス決済などが含まれます。
これらのシステムと考え方が購買行動に浸透している現状があります。オフラインでの働きかけがECサイトに影響を与え、逆にECサイトでのサービスが実店舗での購買意欲を喚起する相互作用が強まっています。
これは物販が日常生活に必要な現物商品を扱っているため、試着、試飲、試用といった体験を完全に排除できないという特性を考慮すると理解しやすいでしょう。
■EC物流市場のまとめ

EC物流市場規模は確実に拡大の一途を辿っています。スマートフォンアプリの普及、SNSの浸透、コロナ禍といった複数の要因が重なり合って市場成長を後押ししています。
ただし物販系、サービス系、デジタル系の各分野による変化の様相は多様です。コロナ禍が落ち着いた現在、どのような展開を見せるかはその要因とともに継続的な注視が必要です。
今後のEC物流市場は、物流コスト最適化、オムニチャネル戦略の深化、テクノロジー活用による効率化が重要なポイントとなるでしょう。市場参入を検討する事業者は、これらの動向を踏まえた戦略立案が成功の鍵となります。
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